(15) 2010/2011シーズン公演(最終更新日:2011.9.4)-------- (大部分の画像は、クリックすると大きくなります)

2010.10.5:「アラベッラ」
2010.11.15:「アンドレア・シェニエ」
2010.12.11:「シラノ・ド・ベルジュラック」
2011.1.4:「トリスタンとイゾルデ」
2011.2.4:「ゲノフェーファ」
2011.2.5:「夕鶴」
2011.3.10:「外套」、「ジャンニ・スキッキ」
2011.4.13:「ばらの騎士」
2011.5.29:「コジ・ファン・トゥッテ」
2011.7.9:「ブリーカー街の聖女」
2011.7.23:「スザンナの秘密」
2011.7.31:「鳴砂」
2011.9.3:「あさくさ天使」

《過去のシーズン公演》:  
1999/2000 * 2000/2001 * 2001/2002 * 2002/2003 * 2003/2004 * 2004/2005 * 2005/2006 * 2006/2007 * 2007/2008 * 2008/2009 * 2009/2010

2010.10.5:「アラベッラ」

尾高忠明新国立劇場新芸術監督が選んだ2010/2011シーズン開幕公演は、 R.シュトラウス作曲の 「アラベッラ」であった。筆者も、何年か前にこのオペラにビデオで最初に接したとき、その素晴らしい音楽とともにドラマティックなストーリー展開に大きな感動 を覚え、以来「お気に入り」のオペラの一つとなった。新国立劇場としては、2度目の公演であるが、前回の公演 では豪華な舞台装置と幻想的な舞台展開の見事さが印象的であった。 今回の公演は新国でも「ホフマン物語」他で実績のあるフィリップ・アルローによる新制作なので、前回との比較に強い関心を持って出かけた。 アルローは、時代を1930年代に設定するとともに、絢爛豪華な舞台ではなく、余計なものをそぎ落としたとのことであるが、青を基調とした舞台は、 近代的なホテルのロビーの雰囲気が良く出ており、なかなか見事であった。森英恵による衣装も時代に合わせた比較的簡素なものであった。また、 場面によっては青の紗幕を引き、舞台を区切ったのは効果的であった。しかし、総体的には、第3幕の前奏曲にのせた鮮やかな舞台変換を含む前回公演 の鮮烈な印象を凌駕するには至らなかった。
一方、出演歌手は何時ものごとく助演にも第一線の日本人歌手を揃えて、高水準の公演であった。日本人歌手では、 ヴァルトナー伯爵夫妻役の豊かな美声をもつ妻屋秀和(Bs)、竹本節子(Ms)、及び舞踏会のマスコットガールであるフィアッカミッリを歌った 天羽明恵(S)が特に良かった。 外国人歌手4人の内、昨シーズンの「ヴォツェック」でも好演し、今回マンドリカを歌った トーマス・ヨハネス・マイヤー(Br)、新国立劇場初登場の ズデンカを歌ったアグネーテ・ムンク・ラスムッセン(S)及びマッテオを歌ったオリヴァーリ・リンゲルハーン(T)の3人は、声も良くなかなかの好演 であったが、主題役アラベッラを歌ったミヒャエラ・カウネ(S)は、優れた表現力と気品 に溢れた容姿は素晴らしかったが、肝心の声がやや潤いに欠け、声量も不足気味で少々期待はずれであった。カタカナ名の歌手が4人ほど並ぶと入場者すうが大幅に 増えるとは、故若杉前芸術監督の談話にもあったが、そろそろ実力のある日本人歌手を重用し、外国人歌手は1-2名のとどめてはいかがっであろうか。 管弦楽は、ウルフ・シルマー指揮下の東フィル。(2010.10.6 記)

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10.10〜19:「フィガロの結婚」

2010.11.15:「アンドレア・シェニエ」

ウンベルト・ジョルダーノ(1867-1948):   作曲の「 アンドレア・シェニエ」は、実在の詩人 アンドレ・シェニエ(アンドレアはイタリア語読み)の半生を描いた ヴェリズモ・オペラの傑作のひとつとして数えられる作品であるが、新国立劇場では、丁度5年前に初演された。 前回同様フィリップ・アルローが担当した今公演の演出・美術・照明は、再度見ても、抽象化された斬新な舞台やはり素晴らしく思った。 回り舞台の上に組まれた白い壁面、間仕切り、果ては墓の十字架に至るまで全て斜めに立てられ、可動式2分割の舞台前面 の大スクリーンを含めて、ギロチンの刃を連想させる形状が舞台に溢れ、フランス革命当時の荒々しく不安定な世情が見事に表現された。 衣装も白を基調としたもので統一されていた。シェニエとマッダレーナの2人が断頭台に向かうフィナーレも印象的であった。 一方、歌手陣は、脇役に至るまで充実しており、高水準の演奏であった。マッダレーナを歌った ノルマ・ファンテーニは、新国立劇場にも何回も出演しているが、今回も相変わらず豊かな美声が活かされ、素晴らしかった。新国立劇場初出演のタイトルロール を歌ったミハイル・アガフォノフ(T)及びジェラールを歌ったアルベルト・ガザーレ(Br)は、ともにきわめて 強靭な美声の持ち主であり、適役であり、好演であった。脇役も、ルーシェを歌った成田博之(Br)、3人のメゾソプラノ(森山京子、山下牧子、竹本節子)をはじめとする日本人歌手も皆好演であった。 管弦楽は、フレデリック・シャスラン指揮したの東フィル。(2010.11.16 記)

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2010.12.11:「シラノ・ド・ベルジュラック」

東京オペラ・プロデュースの定期公演で フランコ・アルファーノ作曲の「シラノ・ド・ベルジュラック」の日本初演が文化庁等の支援を受けて中劇場で行われた。アンリ・カーンによるこのオペラの台本は、実在した シラノ・ド・ベルジュラックを主人公 としたエドモン・ロスタン の韻文戯曲に基づいたものである。この4幕のオペラは、原作に忠実であるため、ドラマとしてはしっかりした骨格をもっている。音楽も重厚な面と繊細な面とを兼ね備えた 正統的なものである。また、単独で歌われるようなポピュラーなアリアはないが、第2幕のシラノとロクサーヌの叙情的な2重 唱などは、なかなか聴きごたえがあった。
今公演の演出面で最も印象的だったのは馬場紀雄(演出)、土屋茂昭(美術)による舞台装置であった。特に第1幕のブルゴーニュ座、第2幕のラグノーの料理店、及び 第4幕の修道院の庭の場面は、大変見事で目を楽しませてもらった。
一方歌手では、シラノを歌った土師雅人(T)は初めて聴いたように思うが、 力強く輝かしい高音をもち好演であった。ロクサーヌ役の 鈴木慶江(S)は、容姿も抜群で適役であった。このほかクリスチャン役の西塚巧(T)の豊かな美声も 印象に残った。管弦楽は、時任康文指揮下の東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団。(2010.12.12 記)

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2011.1.4:「トリスタンとイゾルデ」

新国立劇場では、ワグナーの作品のうち「リング」4部作、「ローエングリン」、「タンホイザー」及び 「さまよえるオランダ人」がすでに上演されているのに対し、最も有名な 「トリスタンとイゾルデ」が今回やっと上演された。 このオペラは、20年ほど前のベルリン国立歌劇場日本公演以来実演には接していないこともあり、個人的には特に好きな作品ではないが、 今回の公演は、歌手、管弦楽、演出ともに素晴らしく、理想に近いものであった。まず、ディヴィッド・マグヴィッカーの演出、ロバート・ ジョーンズの美術による写実的な舞台は、造形的にも美しかった。第一幕の船上のシーンでは、甲板の2人の姿を水面に反映させるアイディア も秀抜であった。しかし、王女を送迎する船がまるで廃船のようなボロ船だったのは、少々腑に落ちない。おまけに、船首を転回した際に舳先 が巻き上げた紗幕に引っ掛かり、異音を発したのには、はらはらさせられた。第二幕の中央に巨大な石柱を配し、天井部を丸く抜いたイゾルデ の館前の構築物も良かった。第三幕古城の庭のシーンでは、変色する巨大な月(太陽?)の動きが効果的であった。 歌手陣は、バイロイト等で活躍している名歌手を揃え、文句のない布陣であった。特に新国立劇場にも度々 出演している、トリスタン役のステファン・グールド(T)、イゾルデ役のイレーネ・テリオン(S)、クルヴェナール役のユッカ・ラジライネン(BsBr)、 ブランゲーネ役のエレナ・ツィトコーワ(Ms)は、3階席までビンビン響く豊かな美声を持ちまさに声の饗宴であった。新国初登場のマルケ王役の ギド・イェンティス(Bs)も渋みのある声で適役であった。管弦楽は、久し振りに帰国した大野和士指揮下の東フィル。(2011.1.4 記)


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2011.2.4:「ゲノフェーファ」

東京室内歌劇場の第129回定期公演として、ロベルト・シューマン作曲のオペラ「ゲノフェーファ」が 新国立劇場(中劇場)で上演された。このオペラは、日本(舞台)初演であり、輸入版のDVDを観る機会もなかったので 今公演で初めて、ドイツ・ロマンティック・オペラの知られざる名作といわれるこのオペラに接することができた。 物語は、子供とともに森の中に追放されたゲノフェーファ伝説が戯曲化され、これにシューマン自身が手を入れたとのことであるが、 かなり不自然な筋書きで、あまり面白いとは言えないが、音楽はアリア、合唱及び管弦楽それぞれにに聴きどころが多く、なかなか 良い作品であった。機会を観て、東京文化会館の音楽資料室あたりでDVDを探して観てみたい。
出演歌手では、やはり題名役の天羽明恵(S)が声、歌唱力とも素晴らしかった。病気の太田直樹に代わって王ジークフリート役を歌った今尾滋(Br)は、 ヘルデン・テノール役(ジークムント)もこなすというだけに、高音部の響きも良く、存在感十分の好演であった。騎士ゴーロを歌った クリスチャン・シュライヒャー(T)は、母国語でのびのびと歌ったが、高音部の輝きが若干不足気味に感じた。ドラーゴ役の大澤建(Bs)は、 重厚な低温で迫力満点ではあったが、ヴィブラートは不自然に響いた。マルガレータ役の星野恵里(Ms)も、まずまずの好演。しかし、乳母 としては、少々若く美しすぎたか。一方、ペーター・ゲスナー演出の舞台、第一幕は黒幕主体で暗過ぎ、第二幕は高所に設けたゲノフェーファ の寝室が何か不自然さを感じたが、第三幕の魔法の鏡の場面は、映像でなく斜めに置いた舞台一杯の大きな鏡の上での演技は、 第四幕の洞窟の場面同様、なかなか迫力があり、盛り上がった。
管弦楽は、山下一史指揮下の東京室内歌劇場管弦楽団。(2011.2.5 記)

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2011.2.5:「夕鶴」

このオペラは、上演の機会も多いので何度か観ているが、丁度10年程前にも、今回と同じ栗山民也演出による公演が、新国立劇場で あった。前回の栗山民也の演出は、装置がシンプル過ぎて緑もない殺風景な舞台には、視覚的な楽しみが少くあまり良い印象は持てなかったが、 今公演も同一演出なので、やはりかなりの不満が残った。第1場、第2場を通して使われる与ひょうの家が骨組みだけに近いものだったのは、 まだ良いとして、舞台左側面全体が階段付の出入口をもったビルの側面のような平面となっており、 この無機的な構築物は、他の情景とマッチせず、違和感をもった。この平面は、空を表すために設けられたようであるが、あと一工夫がほしかった。 一方、第1場では照明の使い方が巧みで、雪景色や日向での子供達の遊ぶ姿がうまく表現された。
今回は、近年では珍しく、ダブルキャスト公演であったが、つう/与ひょうが若手のBキャストの日を選んで 出かけた。つうを歌った腰越満美(S)は、和服もよく似合う美女であり、歌もうまく適役であった。与ひょうを歌った小原啓楼(T)は、オペラや コンクールで何度か聴いたことがあり、好印象をもっていたが今回特にその美声を再認識した。運ず役の谷友博(Br)、惣ど役の島村武男(Br)は ともに指折りの豊かな美声の持ち主であるだけに、最高のペアであり、今回も好演であった。なお、細部の日本語が聞き分けられない場面 もあったので、できれば字幕を付けてもらいたかった。
管弦楽は、高関健指揮下の東京交響楽団。児童合唱は、世田谷ジュニア合唱団。(2011.2.6 記)

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2011.2.14〜26:「椿姫」

2011.3.10:「外套」、「ジャンニ・スキッキ」

新国立劇場オペラ研修所公演の「外套」及び「ジャンニ・スキッキ」を中劇場で観た。 まず、デイヴィッド・エドワーズの演出が面白かった。 彼の過去のオペラ研修所公演での「アルバート・へリング(2007)」及び「ファルスタッフ(2009)」の演出も大変面白かったが、 2つのオペラの舞台装置の骨格を共通にしたユニークな今公演の演出も面白かった。また、研修所OBの賛助出演を得た歌手陣もなかなか充実していた。

「外套」:このオペラ は、セーヌ河畔に係留された船が舞台となるが、今公演では一見して船の形はなかったが、回り舞台に乗った船室が場面に応じて回転し、 巧みにドラマを進行させた。しかし、通常、外套の下に隠したルイージの死体を妻ジョルジェッタに見せるフィナーレでは、船室の戸をおもむろに引くと、 ルージの宙づり死体が現れるという、斬新ではあるが大変ショッキングな結末であった。歌手は、主役の3人が大変素晴らしく、 緊迫した舞台となった。ミケーレを歌った駒田敏章(Br)は在学中の芸大オペラ(たしか「ウィンザーの陽気な女房たち」)でも大変好演だった記憶があるが、 今公演でも持ち前の重量感のあふれた豊かな歌唱は良かった。ジョルジェッタを歌った上田純子(S)も2年前の東京音楽コンクールの優勝者らしく、豊かな美声 を披露し、好演であった。ルイージ役の賛助出演(6期生)の岡田尚之(T)は、研修所時代から公演やコンクールで何度か聴いているが、 力強さも加わり一流歌手に成長した。

「ジャンニ・スキッキ」:天井に鉄骨の見える「外套」の船室の内装を変えて大富豪ブォーゾの居間としたのは、経費節減の目的もあった ものと思われるが、発想が面白い。喜劇らしく、衣装は極端にカラフルで、また、瀕死のブォーゾを装ったジャンニ・スキッキがベッドから降りて 手足を振ったり、動作も大げさであった。しかし、通常、笑いを呼ぶブオーゾの死体隠しがあっさりしていたのは、少々物足りなかった。 歌手陣は、ジャンニ・スキッキ役の山田大智(Br、12期)及びラウレッタ役の上田真野子(S)もまずまずの好演ながら、むしろ北側辰彦(Bs) 等賛助出演の研究所OBの活躍が目立った。 管弦楽は、ドミニク・ウィラー指揮下のトウキョウ・モーツアルト・プレーヤーズ。(2011.3.11 記)

(外套)   (ジャンニ・スキッキ)

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2011.4.13:「ばらの騎士」

東日本大震災の関連で、3月の「マノン・レスコー」が公演中止になってしまったのは残念であったが、 今月の「ばらの騎士」も影響を受け、かなり大幅なキャストの変更があった。すなわち、オクタヴィアン、 ファーニナル及びゾフィー役の歌手が当初の外国人から日本人に変わった。 演出は、2006−2007シーズン公演と同じジョナサン・ミラーが担当したが、時代設定を原作の貴族社会全盛の18 世紀中頃から、このオペラ初演の翌年(第一次世界大戦勃発直前の1912年)に移したことには、あまり大きな 意味は感じられなかった。三幕とも廊下付きの部屋とした舞台は面白かった。特にやや誇張した 遠近法を用いた第二幕の舞台配置及び色彩は、なかなか見事であった。 歌手では、オックス男爵を歌った新国初登場のフランズ・ハヴラタ (Bs)が歌、演技とも存在感を示し、好演であった。一方、元帥夫人を歌ったやはり新国初登場のアンナ=カタリーナ・ ベーンケ(S)は、優雅な容姿は抜群であったが、声はやや潤いに欠ける面もあり、少々期待外れであった。一方、 主役級の役を歌った3人の日本人歌手は、立派に代役を務めた。オクタヴィアン役の井坂恵(Ms)は、前回公演のエレナ・ツィトコーワ のような強靭な声ではないが、大変きれいな声で歌唱力もあり、好演であった。ゾフィー役の安井陽子(S)も持ち前の高音が よく伸びる美声を駆使して好演であった。また、2人とも若々しく容姿的にも適役であった。脇役陣も充実しており、 相対的に高水準の演奏であった。なお、個人的には、何故か今回、 R.シュトラウスの作曲技法の巧みさを再認識した。管弦楽は、マンフレッド・マイヤーホーファー指揮下の新日本フィルハーモニー交響楽団。(2011.4.14 記)

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2011.5.29:「コジ・ファン・トゥッテ」

「コジ・ファン・トゥッテ」は、モーツアルトの22曲のオペラの中で最も好きな作品であるだけに、伊藤京子のコミカルなデスピーナが 印象に残っている50年以上前の二期会公演以来数多くの実演やビデオに接してきたが、今公演のダミアーノ・ミキエレットの新演出の斬新さ には、驚かされた。まず、時代と場所を原作の18世紀のナポリから現代のキャンプ場に設定変更し、登場人物も士官が大学生に、老哲学者が キャンプ場の経営者に、小間使いがキャンプ場の従業員といった具合に大きく変えられた。しかし、意外にもドラマの進行にはあまり不自然さがなく 楽しむことができた。この新演出は、間違いなく、「現代設定」の成功例と言ってよかろう。また、周り舞台に乗った林間キャンプ場のセットが 大変良くできており、視覚的にも楽しむことができた。ただ、字幕ではかなりうまく修正されていた(例えば、“ヴァラキア人かトルコ人か---” を“どこの国の人かわからない”)が、原作通りの歌詞で歌っているため多少の違和感はあった。設定をここまで変えてしまうのであれば、 歌詞の一部も変えてしまった方がむしろすっきりするような気もした。なお、ドラマのラストシーンは、単純なハッピーエンドではなく、姉妹が 取っ組み合いをしたり、ひとひねりしてあった。
今公演のキャストは、全て海外からの招聘であり、トレーケル 以外は新国立劇場初登場であったが、東日本大震災関連で指揮者及び主役(フィオルディリージ、デスピーナ、フェルランド)の3人が降板し、 入れ替わったが、いずれも欧米で活躍している気鋭の歌手のようで総じて高水準の演奏であった。 「神々のたしがれ」のグンター役を好演したローマン・トレーケル、 ドラベッラ役のダニエッラ・ピーニ(Ms)、 デスピーナ役のタリア・オール(S)、 フェランド役のグレゴリー・ウォーレン(T)、 グリエルモ役のアドリアン・エレート(Br)は、いずれも声も良く好演であったが、 フィオルディリージを歌ったマリア・ルイジア・ボルシ(S)は、 サンレモのコンクール優勝などの実績もあり、艶のある大変豊かな声を持っているが、高音域で力み過ぎのためか声の透明感がなくなる場面が何度かみられた のは少々残念であった。ミゲル・A.ゴメス=マルティネス指揮下のオケ(東フィル)は、抑え気味で歌が聴きとりやすかった。(2011.5.30 記)

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2011.6.6〜18:「蝶々夫人」

2011.7.9:「ブリーカー街の聖女」

G.メノッティ生誕100周年を記念して東京オペラ・プロデュース第88回公演で、 「ブリーカー街の聖女」が中劇場で上演された。メノッティのオペラでは、クリスマス・オペラの定番「アマールと夜の訪問者 」や「電話」が有名であるが、筆者は実演では、8年前に やはり彼の代表作である「霊媒」を観たことがあるだけで、このオペラについての知識は、全くなかった。宗教観が極端に異なる兄妹の愛憎を描いたこのオペラは、台本を書いた メノッティ自身の体験も活かされているとのことであるが、非常に重い内容である。管弦楽の響きもまた重厚であり、キャストも良く、なかなか聴きごたえがあった。
主役のアンニーナを歌った橋爪ゆか(S)は、10年程前の「オペラの稽古」「2人のフォスカリ」での好演が印象に残っているが、今回も持ち前の輝かしい高音が活かされ、好演であった。 兄ミケーレを歌った羽山晃生(T)も豊かな美声が活かされ、演技的にも熱演でやはり素晴らしかった。 脇役陣もそれぞれ好演であったが、アッスンタを歌った丸山奈津美(Ms)の豊かな美声が特に目立った。一方、八木清市の演出では、回り舞台を分割して設置した装置によって効果的に 各場面(貧民アパート入口、結婚披露宴、アンニーナの部屋等)の転換が図られたが、結婚披露宴の 場面は少々狭過ぎた感もあった。
管弦楽は、飯坂純指揮下の東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団(2011.7.11 記)

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2011.7.23:「スザンナの秘密」ほか

恒例の新国立劇場・オペラ研修所のオペラ公演が研修所12期生、13期生及び14期生により小劇場で行われた。 今公演の曲目は、 ヴォルフ=フェラーリの短編オペラ 「スザンナの秘密」全曲とともにドニゼッティの「愛の妙薬」及び「ドン パスクァーレ」、ヴェルディの「ルイザ・ミラー」の抜粋 がオムニバス形式で上演された。そしてプログラムには、オペラ試演会「嘘・芝居・真実」というまるで芝居のようなタイトルを付けられていた。 「スザンナの秘密(Il Segreto di Susanna )」は、ビデオを含めて初めて接したオペラであったが、なかなか面白かった。出演は、 一組の新婚夫婦と黙役の召使いだけであり、物語も喫煙というスザンナの秘密をめぐる単純なドタバタ劇である。舞台装置は、椅子と テーブル及び枠だけのドアという頗る簡素なものであったが、ローナ・マーシャル演出による大仰でコミカルな所作には笑いを誘われた。 伯爵ジルを歌った12期生の山田大智(Br)も良かったが、妻スザンナを歌った13期生の立川清子(S)は、主役では初めて聴いたが、艶のある豊かな 美声は出色であり、素晴らしかった。今後の活躍が楽しみである。 「愛の妙薬(第1幕、第2場)」、「ドン パスクァーレ(第3幕、第2場/4場)」、「ルイザ・ミラー(第3幕、最終場)」を歌った 研修生もそれぞれこなれた歌を披露してくれた。ベルコーレを歌った高橋洋介(12期、Br)、ノリーナを 歌った倉本絵里(13期、S)などが特に印象に残った。なお、指揮は天沼裕子、ピアノ伴奏は、高田恵子、星和代及び石野真穂(2011.7.24 記)

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2011.7.31:「鳴砂」

平成23年度 新国立劇場 地域招聘公演として、仙台オペラ協会による岡ア光治作曲の 「鳴砂」が上演された。このオペラは、 1976年に発足した同協会が10周年を記念して委嘱上演したものの再演である。 東北地方が舞台となったオペラでは10年程前に原嘉壽子の「乙和の椿」及び三善晃の「遠い帆」を観た ことがあるが、この2作はそれぞれ、源義経及び支倉常長を主人公とした歴史物語であるのに対し、「鳴砂」は、東北地方のある漁村を舞台に 繰り広げられる架空の男女の悲恋物語である。なお、この物語には原子力発電や自然破壊への警鐘が込められているとして 初演当時話題になったとのことである。 新国立劇場での今回のオペラ上演は、昨年から決定していたが、オーケストラを含めて150人を越える引越し公演のメンバーの中には3月の東日本大震災 で被災した人も多く、一時は開催が危ぶまれたとのことである。しかし、苦難を乗り越え無事開催にこぎつけた関係者の努力には、敬意を表したい。
ところで、このオペラの音楽は、正統的な手法でかかれており親しみやすいが、アリアよりはむしろ合唱に重点が置かれいる。管弦楽は、かなり 大編成であり、ピットから押し出された(?)マリンバと大太鼓は舞台右袖に置かれていた。なお、第一幕ではマリンバが、第二幕では金管が活躍するリズミカルな 響きが心地よかった。 出演歌手の数も多かったが、プログラムでみると拘束時間が多い小中学校の教諭が本業の人が多いのには少々驚いた。 2階の最後列で聴いたが、ナギサ役の工藤留理子など美声で声の良く通る人がいる一方、声量が不足気味に感じられる人もいたが、皆熱演・好演であった。 幕開けとフィナーレに登場する「黒い男」の扱いも効果的であった。 作曲者岡ア光治自身による演出は、スクリーンへの投影を活用して、簡素な舞台を巧みに補った。 特に舞台左奥の縦長矩形の投影が効果的であった。また、色鮮やかな子供達の衣装は、目を楽しませてくれた。 管弦楽は、山下 一史指揮下の 仙台フィルハーモニー管弦楽団。(2011.8.1 記)

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2011.9.3:「あさくさ天使」

大震災のため延期になっていた青いサカナ団による神田慶一のオペラ「あさくさ天使」を小劇場で観た。 神田慶一の作品では、これまでに、「僕は夢を見た、こんな満開の桜の樹の下で」、「アゲハの恋」、「マーマレイドタウンとパールの森」及び「輝きの果て」 の4作を観たが、彼の代表作と言われる「あさくさ天使」に今回やっと接することができた。このオペラは、2004年に江戸開府400年記念事業として東京文化会館 が委嘱した作品であるが、今回の上演に当たって相当な改定がなされたとのことである。ストーリーは、幕間劇が挟まれ、1959年と2004年の場面が交錯し、 少々込入っているが、意外性もあり大変面白かった。音楽的にも管楽器中心の管弦楽と歌とのバランスも良かった。日本語の歌詞も明晰で聞き取りやすかった。 今公演も彼の他の作品同様、神田自身が原作、脚本、作曲、指揮及び演出を1人で取り仕切っているため、訴えに一貫性が感じられた。しかし、舞台装置は、 ‘黒幕の前に小道具があるだけ’といえるほどの簡素なもので、視覚的にはあまり楽しめなかった。スクリーンの活用等で一工夫してほしかった。
キャストでは、男声陣が充実していた。特に大和社長/サラリーマン役の 斉木健詞(Bs)及びリュウジ役の秋谷直之(T)の朗々とした美声が素晴らしかった。オヤジ役の田代誠(T)及びケースケ役の所谷直之(T)も適役で好演であった。 一方、ソプラノの2人、ユメコの菊地美奈 蔵野蘭子は、歌唱力/容姿的には適役ながら、やや声の響き(特に中低音)が弱く男声陣に押され気味であった。(2011.9.4 記)

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