「井筒の女」のあらすじ:

 在原寺の旧跡。旅の絵師が画材を求めながら、『伊勢物語』の冒頭を詠じている。女があらわれる。
女は在原業平が藤原高子を慕って詠んだ歌を口ずさみ、忍び泣く。いつから住んでいるのかとの絵師
の問いに、女は百年、千年と答える。

 平安時代。紀有常の娘、則子は恋い慕う在原業平から縁の契りを受ける。その様子を見ていた紀有
常とその妻朝子は、天皇とも血縁の深い業平と娘との結婚に、家の安泰を信じて喜ぶ。則子と業平は
東屋で抱擁し優しい言葉をかけあう。

 大臣たちが集まり、皇太子が選ばれるのを待っている。時は熟し、紀家ではなく、藤原家の惟仁親
王に天命が下る。(時にして惟仁は九歳。一方皇太子に選ばれなかった紀家の惟喬親王は十五歳で
元服をひかえていた)。

 紀家。藤原家に敗れ落胆する有常。そこへ則子があらわれ、業平が自分のもとに帰ってこない不満
と業平に対する疑心を父にぶつける。だが父は娘の不平に耳を向けようとしない。

 藤原高子の屋。業平が通って来て、つかの間の愛を語り合う。

 紀家。則子の母、紀朝子は、有常のもとを離れ仏門に帰依することを告白する。

(則子の回想から冒頭の絵師と女の場面へ)則子(女)は、業平との出会いと成就を回想し、色恋の道
にひかれていった夫に対するねたみ心、運命への嘆きを歌う。 業平(男)は、歳をとって病に伏して
いる妻を哀れみ、悔恨の念を歌う。女は夫との永遠の愛を願う。  (公演プログラムより)